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8.気持ちを伝える術を知らない
 紫陽花
「移り気」
 鈴蘭
「幸福が訪れる」
 鳳仙花
「短期」

 深崎の指した花にそった言葉を返すに、深崎はどこが「少しだけ」何だろうと。懸念そうに眉を寄せた。で彼と花言葉クイズを楽しむように今までに無いほどに生き生きとした表情で小さく歩幅を埋めていく。

 向日葵
「見つめる」
 ダリア
「華麗」

*

 たどり着いた先には小さな鉢があった。季節外れなのだろうか――鉢には確かに花が植え付けておられるがいまだに薄く緑をおびた蕾を硬く閉じている。
「それは――」
「僕の好きな花」
「花?」
「冬に咲く花だから今はまだ閉じてるけどね」
 藤矢はそう言って、鉢を抱えた。小さいのでそこまで重みがあるようには見えないが、彼は重いガラス細工を持つようにそれを抱えている。
「花言葉を聞いて――の為にって思った」
「え?」

「ごめんね」
 昨日と同じことをいう藤矢に、は首を傾げる。
「僕は最低な男だよ。自分でもよく分かっている。だけど君を見ると、止まらないんだ――君はそんなにも可愛いから――奥に有る――想いが、気持ちが。押しつぶされそうになって。それが、とても苦しい――だけど知ってて、僕は君に誰よりも幸せになってほしいんだ――我侭な僕は何度も君を苦しめたけど」
 深崎の声は酷く切なさを思わせるものだった。が見ると、彼の目にじんわりと溢れてくるものがあった。
「ごめんね」
 深崎はそう言って、手を伸ばした。鉢をゆっくりとに手渡す。拒否することも無くはそれを受け取った。
「それは、僕の気持ち――押しつぶされていた君への、気持ち」

「答えなくてもいい。受け入れなくともいい――だけど、知っていて」

そう言って、深崎は屋敷へと戻っていた。茫然と立ち尽くしたは手にある鉢を見つめる。白い――冬に咲く花――僕の想い――

「胡蝶蘭――」
その花の名前をは呟いた。
「貴方を――愛してます」
そして、花言葉をポツリと呟いた。



気持ちを伝える術を知らない――だけど気付いて
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