16:再会


 はぁ、はぁと勢いのある呼吸をなだめようとはその場で何度も呼吸を繰り返した。意識もせずに走ってきたせいか今自分が居る場所はいままでまったく見覚えのない場所だった。さぁ――っと血の気が引くのを感じはごくりと息を呑んだ。
 辺りはいくつものコンクリートの破片が散らばっており、ゴウンゴウンという怪しい音が静寂を突き破って耳に響いてくる。
「…迷った?」
 まさか。と、思いながらも呟いてみる。それと同時にぽんっと軽い音がしての肩に何かが乗った。
うひゃぁ――!?
 口から心臓が飛び出るとはまさにこの事だ。は無意識に口元を押さえながらばっと後ろを振り返った。
「んー。俺様としては、もう少し色気ある悲鳴を聞きたかったな」
 にんまりと口元を吊り上げて、フォルテがからかうような笑い方をした。の肩を叩いたのはおそらくこの人であろう。
「悪かったわね!どうせ色気なんて無いわよ」
「ははは。いや、でもお前さんが来て助かったよ」
 すると、フォルテはまたぽんっと軽くの肩を叩き、くいっと後ろ手でコンクリートの瓦礫の方を指差す。は黒い瞳を微かに細めて指示されたとおりにそちらを見る。そこには二つの大きな物体が瓦礫に凭れるようにして――物体?あれは――否、人だ――人が瓦礫を背に倒れているんだ――だけど、あれは――

ロッカにリューグ――!?

「ご名答」
 「さすがだね」と言うフォルテの言葉を背中には瓦礫の元まで走り寄った。意識が無いのか、眠っているのか二人の瞼は伏せられている。は半ばパニック状態になったように二人の間に座り首を引くように彼等の上半身を起こした。
「ロッカ!リューグ!――ロッカ!」
「あー、大丈夫。大丈夫」
 ザッザッと靴を鳴らし、フォルテがの後ろに立った。
「そいつら眠ってるだけだよ。俺の姿見た途端、安心したのかコテンってな」
「本当?」
「いや、信じろって」
 の疑問が不満だったのか、フォルテは苦い笑いを作ってそう返した。は改めて双子の方を見る。落ち着いてみてみるとスースーと、規則正しい呼吸の音が聞き取れた。
「よかった。無事で――本当によかった」
 そう言っては倒れこむように寝転がる二人の首元にしがみ付いた。感動の再会とでも言える場面なのだろうが如何せん彼女に小さな想いを抱いているであろう仲間の内を思ってフォルテは罰が悪そうに頭を掻き呟いた。
「あー、さん。嬉しいのはよーくわかるんだが、あんまり抱きつくと――ほら、一応は怪我人なんだし」
「うん。フォルテ――うん。わかった」
 いつものようにツンケンと未練がましそうにこちらを睨むのかと思いきや、は聞き分け良くすっと身を起こした。
「取り合えずこいつ等を屋敷に運んでやろう。な?」
 フォルテは子供をあやす様ににそう言った。だがそのフォルテがそんな口調になったのは、身を起こしたが今にも泣きそうな顔をしていたせいだろうか――可哀想なマグナを思ってかは定かではない。
 兎には角にも、コンクリートの瓦礫が詰まれた再開発区でその日、双子はに確かに再開したのだ。

 フォルテと二人係で運んだ――といっても、は買い物帰りなので、紙袋と二人の持ってきたであろう武器を運び、フォルテがロッカとリューグを抱えるようにして――そうして双子を屋敷まで運んだ。
 最初に出迎えてくれたのはミモザの部屋から出てきた、ケイナだった。彼女は私達二人と、それに抱えられる青年二人を見て何ともいえない叫び声を上げ走り寄ってきた。しきりに「大丈夫?」と、聞かれフォルテが丁寧に事情を話すとケイナはほっと安堵の息をその場で吐いた。また、彼女の叫び声に引かれたのか、部屋の中からミモザもふっと顔を覗かせてコチラの様子を見やった。
「二名追加?」
 言葉は嫌味な風だが、悪戯めいたその目はどうにも楽しんでいる風にしか見えない。隣を見ると、フォルテが疲れた風に苦笑していた。

 幾人かが集まり、ベットの上で寝ている双子を心配そうに見守る。その中でも一番近くに居るのはで――はベットから一歩も離れまいといった風にその柵を持ち、一緒に寝かせている双子を穴が開くというほどに見つめていた。
低いうなり声のような声が聞こえ、双子の力とでもいうのだろうか――何故か、同時にロッカとリューグはその瞳を開いた。茶色い瞳がぱしりとスイッチが入ったように開いたので、は一瞬何が起きたのかわからずに双子を上から見下ろしていた。
「――あぁ、さん」
 ロッカはそう言ってクスリと微笑した。
「――何だ、お前か」
 リューグはそう言って、いつものように眉を寄せた。
 いつもの二人だ。大喜びしたい場だけど、今この部屋には他の人たちも居るので恥ずかしいまねは出来ない。は言葉を飲み込み――はやる気持ちを撫で付けて――それでも抑えきれないほどに潤んだ瞳を細めながら二人に「おかえり」と、小さく告げた。
「何、泣いてんだよ」
「泣いてないよ――リューグこそ、寝ている間。痛い痛い叫んでだわよ」
「…てめぇ」
「ははっ」
 リューグとのやり取りに、ロッカが声を立ててそう笑った。彼は傷だらけの身体をむくりと起こし、辺りを見回す。リューグもそれに次いで身体を起こす。
「心配をかけたようで――だけど、大丈夫。僕等も、お爺さんも無事です」
「お爺さん?――そう言えば、アグラさんはどうしたの?」
「死んでいねぇ事は確かだよ。一緒に居るよりは分かれて逃げた方がいいと思ったから離れただけだ」
 リューグの素っ気のない、その言葉に全員が安堵の息を漏らす。
「しかし、よくあの連中から逃げ切れたもんだ」
 感心した様子で、フォルテがからかうようにそう放つと、何故か端の方で腕を組んでおったネスティの顔に影が入った。
「風向きが変わったんです。うまくあいつらに不利な状況になって――運が良かったんですよ」
 そうは言っておるもの、ロッカの表情はいつも不機嫌なリューグよりも曇ったような顔立ちだった。それを不思議に思いは彼に理由を問いかけようかとも思ったがその前に――部屋のドアが勢い良く開かれマグナとアメルが彼等の名前を大きな声で呼んだので、は何も言葉を発することが出来なかった。

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